Hamilton-エレクトリックCAL.500(電磁テンプ式)修理

このホームページの電池式腕時計の修理記録をごらんになって、修理依頼がありました。修理品は左です。事前調査用にジャンク(右)を添えていただいたありがたい修理依頼でした。この時計は初めての修理であることを申し上げ、ジャンクで勉強し修理できない時はお返しする約束で時計を送っていただきました。

修理依頼品は1日、5分~20分ぐらい進む、ジャンクは不動

修理依頼品の故障内容は1日、5分~20分位進む(購入時から)です。ジャンクは不動です。修理依頼品は私のタイムグラファーでは変動の大きい歩度の表現が出来ないらしくすぐに測定不能になります。そこで、びぶ朗で測定した結果が左のチャート(60秒)です。

<びぶ朗>                             1画面で15分間の変化が見ることができるなど修理には役立つツールですよね。

修理依頼品とジャンク品の機械

<修理依頼品>

電池支持はジャンク品と同じバネ方式なのでCal.500の機械です。テンプ受はCal.500A、501用です。また、磁気回路を形成している上部継鉄の組み付けの向きが逆。ジャンク品の様に二本の角が外向きになるのが正解です。

この時計はCal500であり、テンプ受のみが500A/501用に交換されています。

<ジャンク品>

接点ブロックに書かれたCal.名は500Aですがテンプ受はCal.500用です。また、電池支持バネ方式なのでCal.500で接点ブロックのみがCal.500A用です。ただし、接点ブロックはCal.500と500Aで変更はなくキャリバー表示の印刷のみの違いです。接点バネ、制動バネなどは全く同じです。外観は修理依頼品に同等にきれいでした。

ジャンク品の修理結果

接点バネと制動バネが接点振り座にぶつかって大きく変形していました。以下の作業でジャンクムーブメントは良好な動作をするようになった。

①接点ブロックを外して接点ヒゲ、制動ヒゲの整形、テンションの調整

②テンプの静止位置の修正

③接点バネ、制動バネのタイミング調整

④緩急針調整

結果、日差±10秒程度の精度のよい時計になりました。消費電流は仕様が5~7μAのところ、約10μAであった。結果、電池寿命は約10か月となりました。参考書と首っ引きの作業でしたが、幸運にも調整に成功することができました。このムーブに交換することで修理完了とさせていただきました。

 

<追記>

接点バネ、制動バネはそれぞれ固定ピンにカシメ取り付けされていました。固定ピンを回転してバネと接点の接触量などの調整をしますが、固定ピンが非常に固く調整が難しいでした。また、両バネとも固定ピンの付近で曲げてタイミング調整をしますが、バネが非常に薄くデリケートですぐにでも破断しそうで神経を使います。予備の接点ブロックは修理にために必要と思いました。

ジャンク品修理後のびぶ朗チャート、少し進み目調整しました。ランニング(文字他上)の結果は日差+10秒、翌日は日差ー5秒のように±10秒ぐらいのように進んだり遅れたりする結果でした。

修理依頼品が大きく進む原因はヒゲゼンマイが短い!?

正確な動作をするジャンク修理品とヒゲゼンマイを比較した結果、修理依頼品はヒゲゼンマイが5.3mmも短い。

 

巻き数を数えますと、修理依頼品の方がかなり短いです。巻き始めから巻き終わりまでの巻き数を数えますと以下のようでした。 

修理依頼品:赤矢印部分は12巻  青矢印部分は13巻

ジャンク品:黄矢印部分は14巻  青矢印部分は13巻 

修理依頼品はヒゲゼンマイがジャンク品より(赤矢印部分+黄矢印部分=50+70=120度)の分だけ短いということになります。ゼンマイ全体の直径は約5mmです。外周の円周は5×3.14=約16mmです。 

360度で16mmで120度分短いのですから、16mmの1/3で5.3mm短いことになります。

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追記:2014-1-9 

テンプノの振動周期は以下の要因で変化します。

①ヒゲの長さ(短くなる時に時計は進む)

②テンプの重さ(重さが減る時に時計は進む)

③テンプの外径(外径が減少する時に時計は進む)

④ヒゲの弾性(弾性が増加する時に時計は進む)

 

この時計の場合はヒゲの弾性は同じとして、ヒゲゼンマイの長さだけでなく、テンプの重さ、外径についても考慮しないといけないかもしれません。普通のテンプより部品数も多く重さもばらついているはず、またヒゲの外径もコイルもあり、対抗してバランスのチラネジも配置され、結構な変動要素になっているかもしれません。テンプをいくつか準備してヒゲ合わせ的な実験をやれば各要因の歩度への影響度を確認できるのでは・・・今後の課題とします。

 

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ゼンマイの長さと歩度(機械式キングセイコーの確認結果から単純に換算すると5.3mmは15分に相当

緩急針は赤矢印の50度ぐらい動きます。ヒゲゼンマイの長さは約2.5mmです。緩急針での調整幅は-210~+210秒/日、つまり、ヒゲゼンマイ2.5mmは420秒(7分)に相当します。1mmは420÷2.5=168秒(2.8分)です。 かなり強引ですが、これを修理依頼品に適用しますと5.3mm×168=890秒=約15分となります。修理依頼品は15分ぐらい進む時計であるといえます。

 

したがって、Cal.500のヒゲゼンマイもしくは同等のゼンマイを入手し交換すれば正確な時計になると思っております。

<参考資料>

異常進みの要因について

ーーー追記1:2020-9-16ーーー

本修理ではヒゲゼンマイの長いものを使用し猛烈な進みを解決できました。    その後の経験で以下の要因でも異常な進みがおきることを経験しています。

(1)接点バネ+制動バネの調整不良

(2)テンプの油汚れ・・・振切防止片の動きが悪くなると振切りがおきて異常な進みとなる場合があります。 

 <お願い>

この修理記録に勘違いや間違いがありましたら、ご指摘やアドバイスいただければと願っています。

 

修理完了:2013-10-12

無事に修理完了、時計が正確な時を刻むようになり喜んでいただけました。

 

 

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