ハミルトン・リコー・エレクトリック(電磁テンプ)動作せず

電池を入れても動作しないということで修理依頼がありました。電池マイナスに接触する接触子が折れていて、電池マイナスが回路に接続されない状態でした。また、時計に入っていた電池はLR43で完全に消耗していた。

 

 

<時計の説明>

CAL.555E(1962年ハミルトン、リコー合弁会社で製造)

ハミルトンCAL130Eとほぼ同じ(CAL.505ベースの廉価版とのこと)

振動数:18000回/時(5振動)接点ピンと接点車の接触回数:9000回/時

電池寿命(*):約2年/110mAh(消費電流:5~7μA)*:505仕様

不動の原因は電池のマイナス側接触子の折れ

電池LR4(11.6×4.2)の電圧を確認したところ、放電していて0Vでした。また、回路のマイナス電極が写真のように文字板側に落ち込んでいました。そのためにムーブメントの回路に電圧が供給されない状態でした。また、地板と電池の間に短絡防止の絶縁シートがなく、そのため電池マイナス極は地板(プラス)に短絡した状態でした。

破損したマイナス電極部品を交換

ハミルトン・リコー電磁テンプのムーブメントは手持ちがありませんでしたが、全く同一部品で構成されるハミルトンCAL.130Eから部品取りして修理しました。

修理2:電池の短絡防止で絶縁シートを追加

黄色点線が絶縁シートです。0.5ミリ厚のクリアファイルから切り抜いて作成しました。この絶縁シートがないと赤点線の付近で電池マイナス極が地板と接触して短絡します。(昔のボタン電池のマイナス極の径は最近の電池よりかなり小さいものがあります。径が赤点線より十分に小さければ短絡はしません。)また、絶縁シートではなくプラスチックアダプタに一回り小さな電池をいれた専用電池もebayなどでは購入できます。この場合、電池容量も小さくなりまので、この絶縁シート方式もなかなかの対策といえます。紛失しないようお客様には十分説明しました。

重要部品のテンプ振り座の接点ピンに消耗あり

テンプの往復運動の片方で接点ピン(金接点)でガンギ歯を送りますが、その時に接点が閉じてコイルに電流が流れ、テンプに力が与えられます。この金接点の裏側はルビーの柱になっていてテンプの逆回転時は電流が流れず、ガンギ車には接点車と位置決め車(案内車)と呼ばれる歯車があり、また、地板側には位置決め用の永久磁石があり、ガンギ車は逆回転しません。テンプの1往復でガンギ1歯が送られ輪列が進行します。ガンギ車は中央で電気的に絶縁されていて、電池マイナス→ガンギ地板側ホゾ→接点車→接点→コイル→テンプヒゲゼンマイ→地板→電池プラス押えの経路で電流が流れます。なかなか面白い構造の時計です。

ハミルトンCAL.505、CAL.130E、ハミルトン・リコーのCAL.555Eについてこの接点のしくみや構成部品はほぼ同一です。これまでにオーバーホールしたこれらの時計は接点ピンに摩耗が見られました。この部分の修理は研究中です。

また、振り座の地板側の天真に多量の赤サビが付着していました。手洗い洗浄で除去しましたが、このサビが落下すると軸受の潤滑油の中にサビが混入し急激にホゾが摩耗する可能性があります。オーバーホールでサビや汚れ、穴石、軸受の清掃、注油は重要であると思います。

修理後の性能

ランニング始めて24時間の誤差は+5秒でしたが、その後、日差+10~15秒ぐらいで動きました。なかなか良い性能がでました。

金接点の磨滅を考えると、時計を使用しない場合はリューズを引いてテンプを止めておいたほうが延命できます。

 

電池はSR43SWを使用(110mAh)、消費電流は約10μAと仕様より大きく、計算では15カ月。連続使用で約1年で交換という目安です。

 

<修理完了日> 2014-10-2

 

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