日差、60秒ぐらいということでオーバーホール依頼の時計です。穴石の著しい汚れやテンプ上下軸受の油枯渇にもかかわらず、大きな進みになることがありました。進みはヒゲゼンマイに油が付着でコイル間がくっつくためで、洗浄した結果、進みは無くなり、遅れになりました。穴石の汚れ掃除+注油+調整で良好な結果が得られました。
この時計はセイコーの「最後の手巻き式」である61スカイライナー腕時計のムーブメントを使用しています。鉄道用の懐中時計です。
製造開始 :1968年(オーバーホール依頼品は1972年9月製)
石数 :21石
キャリバー:6110A、
振動数 :21600回/時(6振動)
ヒゲゼンマイ油付着を洗浄した後のびぶ朗の歩度60秒チャートです。文字板上で約80秒の遅れ、12時上で約50秒の遅れです。
左はガンギ軸受(ダイヤフィックス)です。右は二番の穴石です。かなり汚れの多い状態でした。
ダイヤフィックス軸受に入ったごみはきれいなベンジンに浸し超音波洗浄を数回実施することで取れる場合は多いですが、今回は5分×3回でも大きなゴミが残ったので、分解して洗浄しました。
超音波洗浄では汚れが除去できませんでした。軸受ダイアフィックスを分解して受け石、穴石を取り出し清掃、注油しました。ダイヤフィックス軸受は分解、組み立てが難しいです。顕微鏡で作業すれば微妙な動きを見ながら作業できますので失敗はありません。(ただ、ピンセットで不用意に軽く触れただけで写真のようにばねにキズがついてしまいます。)
毎回やる作業ではありませんので慎重な作業になります。付録参照ください。
私の教科書の「時計修理技術読本」からダイヤフィックスの分解組み立ての部分(223~224ページ)を抜粋しました。
第二章 耐震軸受の分解組み立て法(略)
1.ばね外し工具の作り方(略)
2.分解組み立て法(略)
3.車軸受押えバネの外し方(以下抜粋です。)
国産腕時計は三番、四番の受石を次頁図のダイヤフィックスか、プロフィックスで押さえているが、これを外すに厄介なためか、外さないで洗浄している。しかし、工具があれば、簡単に外せ、また取り付けることができる。ダイヤフィックスの押えバネは図のように小さな、肩の隙に入るドライバー型に作り、肩の隙に差し入れ、尖った掃除木で上部から押さえながら、矢の方向にねじってバネを下げ、頭部を溝から外せばよい。取り付ける場合もねじりながらピンセットで頭部を下側へ押しつければ楽に入る。小柄な婦人用は頭部からでなく側から隙に押し込み片方の足を矢の方向に押すようにねじり片側を外せば後は楽に外せる。この場合も掃除木で押さえていないと飛ぶことがある。取り付けも、始め頭部と片方の足だけ溝に入れておいて、片方をテコでねじりながらピンセットで下へ押せばよい。