私の知人の時計です。最近、定年を迎えたのですが、定年と前後したある日、手巻きでゼンマイを巻いている時に切れたとのこと。入社時にお祝いとしていただき、定年までの40年間以上を愛用してきた時計とのこと。一度、修理に出したが、ゼンマイ部品がないということで返却されたとのことでした。
香箱真側で破断していました。
ニバフレックス白色ゼンマイで香箱フタに「DO NOT OPEN」と書かれています。香箱フタは一部分がカシメられているようで普通の香箱のようにパチンとは開きません。40年間、使用してもゼンマイの全体形状は写真のように維持されていました。
オリジナルのゼンマイは時計から部品取りするしか術がない様で調達を断念。61系自動巻き時計の香箱で寸法的に6145に組み込めるものを調査しました。本来の性能は得られなくともなんとか実用時計として復活することを願って始めました。
この時計とCal.6106とCal.6119のぜんまい寸法の測定結果です。ゼンマイの幅は1mmと思っていましたが、資料から1.05mmということでした。厚さはノギスとマイクロメータで測定、10振動の61グランドは約0.15mm、6振動の時計は約0.12mmでした。測定値の差は0.03mm(30ミクロン)の差ですが、指先で感じるバネの腰は全く異なります。
左は時計修理技術読本(小野茂、菅波錦平)の「第四編 原動力ゼンマイ」からの抜粋です。
今回の場合、幅は同じで、厚さ0.15mm:0.12mmからこの差はゼンマイの強さ(トルク)に換算すると、三乗に比例するということですから、トルクの比率なので小数点を省略して計算しました。(15の3乗):(12の3乗)となり、3375 : 1728で約2:1となります。つまり、0.12mmのゼンマイは61グランドセイコーのゼンマイの半分の強さ(トルク)しかないという結果になりました。指の感触が納得できました。
上図は600秒びぶ朗チャートを3枚(30分間分)つなぎ合わせたものです。修理品でのテストではなく、私の6146(61グランド日曜付)のに組み込んでテストしたものです。トルク半分のゼンマイ故に歩度線は一直線ではなく、進んだり遅れたりしているようです。
60秒チャートでは一見、直線性は良い様に見えます。ただ、長い時間でみると遅れたり進んだりしながら以後いています。タイムグラファーで見ると測定値が一定の幅でばらついています。
しかし、不安定と言ってもさほど大きな変動はなく、十分に実用に耐えるのではという希望がでてきました。
トルク半分のゼンマイで動いている6145の振り角と過去のOH品の振り角の比較です。振り角は約35%減になっています。
ここまでタイムグラファーとびぶ朗で性能確認をしてきました。文字板上で全巻きからのランニングを行いました。
<結果>
・持続時間:49時間
・誤差 :-2秒/12時間、-6秒/24時間、-8秒/36時間、+1s//48時間
でした。精度、持続時間とも実用できる時計に復活できました。この時計がどのような性能を長期に維持できるか見守っていきたいと思います。
<修理完了日> 2014-6-1