<この時計について>
修理の依頼人の祖父が日露戦争でご使用になっていた時計とのこと。日露戦争の過酷な状況の中で時を刻んだ歴史的な時計であり、自分が修理に着手することにためらいと緊張があったが承諾を得て修理させていただいた。
<故障内容と対応>
1.ゼンマイ内端部で破断→内端部に穴加工し使用。持続時間24時間
2.リューズ巻き機構のロッキングバーのストッパ紛失→ストッパ製作
3.永久秒針の脱落→ハカマ締め
4.クロノグラフドライブ車の脱落→ハカマ締め
5.時合わせ空回り→ダボ摩耗が原因→0.8mm長くしてOK
6.リセット時に帰零せず55分位置になることがある。ハートカム、レバーの摩耗まど原因と推定。ずれた時はもう一度スタートストップ→リセットすれば帰零する。今回はここまでとし、ハートカムの当たり面の研磨などは今後の課題とする。
7.二番車と三番車の歯車が擦れて摩耗している。二番車の歯車が(傘が逆さになったように)変形しているので、修正した。
<修理完了>2012-6-20
以上の修理の結果、力強く動きだしました。ストップウオッチ機能もたまに帰零がずれることを除いては好調。なんとか無事に修理を終えることができ安堵と満足感に浸ることができました。
クロノグラフホイールの受けにCh.Huguenin & Co.が美しく刻印されている。
時計雑誌「世界の腕時計No102 2011-12-20」の(続)商館時計蒐集綺談にまさに同じ時計が紹介されています。以下青文字で記事抜粋。
「・・・どちらにしましても、明治期のクロノグラフ付きの懐中時計は一般の人達には全く縁のない物で、一部の裕福な好事家、お医者さん、軍関係の計測用に必要最小限輸入された程度だと考えられます。また、資料⑫~⑳は横浜
のコロン商会が明治20年前後に輸入したと思われる数種のクロノグラフ付き銀片蓋側懐中時計です。機械についてはコロン商会がほとんどの時計製造を仕せたスイス、ニューシャテルのCh.Hormann & Co.ではなく同じ地域のCh.Huguenin & Co.である。Hormannでもこれ位の機構の時計の製造は簡単にできると思いますがこのタイプの時計の原価面や工場の稼動状態の問題など何らかの事情があって、Huguenin社を使ったのかもしれません。・・・」
この時計にはクロノグラフホイールの受けの刻印はCh.Hormann & Coであり、この雑誌で言う.Ch.Huguenin & Co.ではない。同じ時計であるがメーカ刻印は異なる。