IWCポートフィノ・サビ取り再生

約半年前に手洗い時の水が時計にかかり風防が曇る様になった。その後、運針が停止した。いくつかの時計店に整備を依頼したが断られ、半年が経ち、日車にもサビが見えるようになった。という経過の時計です。なんとかサビた部品をみがくことで動くように出来ないか・・・ということで相談がありました。じっくり時間をかけ、整備に挑戦することにしました。

 

補足:今回の修理は本来は、IWCの刻印のある美しい地板、受けはそのまま残して、さびた部品は新品ETA2892A2ムーブメント一式を入手し部品取りして交換すべきものと考えます。ただ、今回は部品交換せず、サビ取りで性能が復活するかに挑戦するということで修理に着手しました。 

<整備する時計>

IWC Portfino Automatic/date  

CalIWC37521 Ref:3513-1

Base MovementETA2892A2

振動数:28800、3気圧防水

持続時間:42時間

サファイアガラス(球面)

 

 

  

 

←リューズには魚のマークあり

 

<サビの状況>

ガンギのカナ、軸です。もっともサビている部品であった。各歯車のカナ、軸は大なり小なり、サビが発生していました。

左写真は二番車の一番受穴石のホゾです。錆ついていて一番受に固着していた。右写真は三番車のカナ、サビで歯車表面がかなり腐食しています。

一番受の裏側の各歯車カナ部にサビが発生していた。

日回し車を始めかなりのサビが見られた。

日車は写真では見えないが小さな塗装剥離が数多く生じている。したがって、新品に交換することとしました。

 

<サビ取り>

サビ取り剤としてビザーW(材質をいためない強力瞬間サビトリ剤 時計専用)を始めて使用しました。

写真左:ビザーW10CCに水道水20CCを加えたもの。

写真右:サビた部品を入れるとサビと反応して液の色がピンクから紫色に変色します。サビが分厚く発生している部品、赤錆びが薄く表面を覆っている部品など入れますとすぐにサビが赤紫色に溶けだすのが観察できます。超音波洗浄を併用し、5分超音波、取り出し水洗い、アルコールですすぎ、顕微鏡観察、・・この作業を繰り返しました。説明書には黒変時間は時間単位になっていますが、今回、各車の軸とカナは浸漬してすぐに黒変しました。しかし、数回繰り返すと荒サビが取れ、その後、顕微鏡下で黒変した軸、カナを青棒(研磨剤)をつけた掃除棒や鹿皮で磨くと光沢がでてなんとか使用可能な状態になりました。サビが重症だったので、サビが出た分、カナや軸の表面が溶けだして凹痕跡が多く見られます。これはやむなし。サビ取りは大成功です。

写真左はサビ除去前、写真右はサビ除去して磨いた状態、凹状の腐食痕跡は残っていますがカナとしての機能は復活。なお、歯車はピカピカで無傷でした。

ガンギよりは少ないサビで写真右のように仕上げました。

 

<参考>

写真はありませんが、アンクルのホゾ、軸にはサビは見られませんでした。

<サビ取り後の性能>  

①タイムグラファー測定値 文字板上:歩度±10s/d、振り角200~230°

②全巻きからのランニング

標準時に合わせてスタート、その後、各正時に時計の指示と標準時の差を採取しました。(データなし時間帯あり)そのグラフです。

 

日差±30秒ぐらいの実用で耐えられる時計に復活できました。

    【文字板上でのランニング結果】

      プラスの最大誤差=+1秒 14時間経過時点

      マイナスの最大誤差=-5秒 24時間経過時点

      持続時間=47時間

 

重度のサビ取り後にこの性能がでたということは、ETA2892A2は今回初めてでしたが、高性能の出やすい素晴らしいムーブメントであると思いました。さらにはもう少し振り角がでてほしかったのですが、ホゾ磨きの技量アップが一つの課題であるように感じました。

 

<修理完了>2013-6-30

 

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